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受難節第5主日礼拝 説教「あなたの中にいるあなた」
日本キリスト教団茅ケ崎堤伝道所
2022年4月3日
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サムエル記 上 第16章10節~13節
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「あなたの中にいるあなた」 要約
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① 神様にしか見えていない |
昔、イタリアにミケランジェロという芸術家がいました。彼は大理石の塊を前に不思議なことを言うのです。「中に天使がいる」と。そして「彫刻っていうのは、その周りの余計な部分を取ってあげて、中にいる天使を自由にしてあげることなのだ」と。日本にも運慶という仏師がいました。彼も「仏を鑿(のみ)で作るのではない。木の中に埋まっているものを、鑿と槌(つち)の力で彫り出すのだ」と似たようなことを言っています。普通の人には、ただの石、そして木にしか見えません。けれども彼らには、その中にある輝くものが見えていたのです。だから自分で像を作り出すのではなくて、既にあるものを掘り出すだけだと言ったのです。私たち自身に関しても同じことが言えるのではないでしょうか。神様にしか見えていない部分というものがある。私たちがどれだけ目を凝らしても見えない部分。自分の中に、自分でも知らない自分が存在する。自分に見えない自分、神様にしか見えていない部分、それを神様が見出し、掘り出して下さるのです。 |
② 自分でも知らない自分 |
ある日、神様はイスラエルに新しい王を立てることにしました。早速、スカウトマン(サムエル)をエッサイの家へと遣わします。オーディションを兼ねた食事の席で、エッサイは上の息子から順に、サムエルに紹介していきます。サムエルは思っていました。「王に選ばれる位だから、きっと背も高く、かっこ良く、頭も良いに違いない」と。エッサイが最初に連れてきた息子は、正にそんな人でした。だから、サムエルはこの人こそ新しい王になる人だと思いました。が、そんな彼に神様はアドバイスします。「容姿や背の高さに目を向けるな。人は目に映ることを見るが、主は心によって見る」(7節)と。結局、最後の最後、食事の席に呼ばれさえしていなかった末っ子のダビデが選ばれます。これにはダビデ自身が一番ビックリしたことでしょう。自分でも知らない自分が掘り出された瞬間です。ダビデは後にこう歌います。「神様、あなたは私の全てを知っておられます」(詩139参照)。自分でも知らない自分を見ていて下さったことに感動したのです。 |
③ あなたの中にいるあなた |
神様の選びは不思議です。サウルが選ばれた時もそうでした。彼は「イスラエルで最も小さな部族ベニヤミンの者で…そのベニヤミンでも最小の一族の者」(9:21)だったのです。では何をもって決められるのか。「主は心によって見る」と言われました。「心」とは、内面の性格とか人柄、信仰のことでしょうか。もしもそういう類いのものであれば、きっと誰も神様のお眼鏡にかなわないと思います。そうではなく、ここでの「心」とは主ご自身の心のことでしょう。つまり神様が内に秘めたる思い、基準でもって見るということです。年下の弟が兄よりも前に出るという話はここだけではありません(創世記4:37、48章など)。なぜ神様はそのようなことをお許しになったのでしょう。「主が心引かれてあなたたちを選ばれたのは、あなたたちが他のどの民よりも数が多かったからではない。あなたたちは他のどの民よりも貧弱であった。ただあなたに対する主の愛のゆえに」(申命記7:7~8)。「神は地位のある者を無力な者とするため、世の無に等しい者、身分の卑しい者や見下げられている者を選ばれたのです。それは、誰一人、神の前で誇ることがないようにするため」(1コリント1:28~29)。それが神様の「愛のゆえ」の選びであることは確かです。
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